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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)12070号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人弁護士

板谷洋

稲生義隆

被告

協栄生命保険株式会社

右代表者代表取締役

亀徳正之

右訴訟代理人弁護士

関口保太郎

武田信秀

右訴訟復代理人弁護士

脇田眞憲

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告に対し、四八〇八万二九四〇円及び内三〇八万二九四〇円に対する昭和五四年一二月二六日から、内一〇〇〇万円に対する昭和五五年一一月一五日から、内二五〇〇万円に対する昭和五八年一月一日から、内一〇〇〇万円に対する同年一一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙目録(略)(一)記載の謝罪広告を別紙目録(略)(二)記載の各新聞に各一回掲載せよ。

第二事案の概要

原告は、生命保険会社である被告の保険外務員として勤務していたところ、被告から保険料集金に関し不正行為があったとして懲戒解雇処分を受けるとともに、原告の費消事故を理由としたブラックリスト登載者の措置を受けた。

本件は、原告が被告に対し、原告勤務中の未払手当金が三〇八万二九四〇円存したとしてこの支払を求めたほか、懲戒解雇事由なくして違法・無効な懲戒解雇処分を受けたばかりか、右ブラックリスト登載者としての違法な措置を受け、これにより他の保険会社の代理店として原告が満七〇歳になるまで営業し毎月平均一〇〇万円以上、合計四四〇〇万円の利益を得ることができたのにこれを喪失した(仮にこの主張が認められないとしても、本件懲戒解雇処分がなされなければ被告において勤務し同額の手当金の支給を受けることができたのに、この支給を受けることができなくなった。)として不法行為に基づきこれらの損害金(予備的に逸失手当金)の支払を求め、右名誉・信用の回復措置として新聞紙上への謝罪広告を求めた事案である。

(争いのない事実及び証拠により認められる事実)

一  当事者等

被告は、生命保険業を営む株式会社であり、原告は、昭和五一年二月一日付けで被告に保険外交の見習い職員として採用され、同五二年二月一日付けで被告の正社員となり、同五四年一二月二六日に懲戒解雇されるまで勤務していた。

二  募集手当等に関する契約

被告は、昭和五一年一一月一日、原告との間で、原告が勧誘して成立した団体生命保険契約につき、次のとおり募集手当金等に関する契約を締結した。

1 初回募集手当金

被告において入金した保険料の半月分を初回入金の翌月二五日に原告に支払う。

2 初年度手当金

被告において入金した初年度の保険料の一か月分の三割五分を、初回入金の翌々月以降三か月間各月の二五日に支払う。

3 成績手当金

毎年二月から七月又は八月から翌年一月の各六か月の期間内における主契約保険契約の成立又は主契約保険金の増額が、六〇億円以上の場合は、当該期間後六か月間各月二五日に六万円を支払う。

三  団体生命保険契約の成立

原告は、昭和五一年一一月に、神奈川県個人タクシー連合会(以下単に「連合会」という。)と保険金総額約一四〇億円(一か月の保険料は約七〇〇万円)の団体生命保険契約を成立させたが、平均保険料の関係で、同契約は大蔵省に届け出ることができず、昭和五二年二月に連合会、被告間で一旦合意解約され、同年三月、新たに連合会と保険金総額約二〇七億円(一か月の保険料は約一二〇〇万円)の契約を成立させ、同五三年一月には九州個人タクシー連合会と保険金総額一四〇億円(一か月の保険料は約七〇〇万円)の契約を成立させた。

そして、原告の勧誘により保険契約が成立することとなった団体内の被保険者等の変更に関しては、被保険者の中途加入と、従来の保険金の増額については、原告が前記二記載の諸手当金の支払を受けることになっており、昭和五四年四月入金の保険料分まではそのとおり支払われてきた。

四  保険金増額

原告は、保険金の増額につき、左の内容の書面を受取った。

なお、右のとおり保険金が増額された場合の手当金等の金額も左のとおりである。

1 連合会(昭和五四年四月一日付け)主契約保険金の増額 一六億三三〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 三億一三〇〇万円

中途加入による主契約保険金の増額 四億一六〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 三億八八〇〇万円

これによる一か月の保険料の増額 一一四万三六七〇円(主契約保険金については、対万五円を、特約保険金については、対万一円七〇銭を乗じて保険料を計算する。以下同じ。)

初回募集手当金 一一四万三六七〇円÷二=五七万一八三五円

初年度手当金合計額 一一四万三六七〇円×〇・三五×三=一二〇万〇八五三円

2 連合会(昭和五四年五月一日付け)主契約保険金の増額 二七億二三〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 七億六五〇〇万円

中途加入による主契約保険金の増額 二億九五〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 二億七二〇〇万円

これによる一か月の保険料の増額 一六八万五二九〇円

初回募集手当金 一六八万五二九〇円÷二=八四万二六四五円

初年度手当金合計額 一六八万五二九〇円×〇・三五×三=一七六万九五五四円

3 連合会(昭和五四年六月一日付け)主契約保険金の増額 一七〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 六〇〇万円

中途加入による主契約保険金の増額 一九〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 一四〇〇万円

これによる一か月の保険料の増額 二万一四〇〇円

初回募集手当金 二万一四〇〇円÷二=一万〇七〇〇円

初年度手当金合計額 二万一四〇〇円×〇・三五×三=二万二四七〇円

4 連合会(昭和五四年七月一日付け)中途加入による主契約保険金の増額 一三〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 一三〇〇万円

これによる一か月の保険料の増額 八七一〇円

初回募集手当金 八七一〇÷(ママ)二=四三五五円

初年度手当金合計額 八七一〇円×〇・三五×三=九一四五円

5 連合会(昭和五四年九月一日付け)主契約保険金の増額 七〇〇万円

中途加入による主契約保険金の増額 四八〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 三三〇〇万円

これによる一か月の保険料の増額 三万三一一〇円

初回募集手当金 三万三一一〇円÷二=一万六五五五円

初年度手当金合計額 三万三一一〇円×〇・三五=一万一五八八円

(但し、一二月に雇用関係が終了したことを前提に一二月支払分のみ)

6 九州個人タクシー連合会(昭和五四年六月一日付け)

中途加入による主契約保険金の増額 九四〇〇万円

これにともなう特約保険金の増額 八一〇〇万円

これによる一か月の保険料の増額 六万〇七七〇円

初回募集手当金 六万〇七七〇円÷二=三万〇三八五円

初年度手当金合計額 六万〇七七〇円×〇・三五×三=六万三八〇八円

7 九州個人タクシー連合会(昭和五四年二月一日付け、同年三月一日付け)

本件に関しては、原告は全額支払を受けているところ、原告は、これを加えないと成績手当金の根拠となる主契約保険金額が六〇億円にはならないとして主張している。これらは(証拠略)記載の募集手当金から逆算したものである。なお、これについては保険契約が成立したことについても争いがない。

二月の中途加入、保険金増額による主契約保険金の増額 五億二〇〇〇万円

計算の根拠

三月分の募集手当金 一七万六五三五円×二=三五万三〇七〇円

(増額保険料) 三五万三〇七〇円÷六・七円≒五二〇〇〇円

三月の中途加入、保険金増額による主契約保険金の増額 三億〇九〇〇万円

計算の根拠

四月分の募集手当金 一〇万三七五〇円×二=二〇万七五〇〇円

(増額保険料) 二〇万七五〇〇円÷六・七円≒三〇九〇〇円

五  本件保険契約の法的構造

本件保険契約は、連合会の会長を契約者並びに受取人、連合会を構成する各単位組合の組合員を被保険者、被告を保険者とする契約であって、他人のための生命の保険である。したがって、商法六七四条により本件保険契約は被保険者である各組合員の同意が効力発生要件である。

そこで、被告は、本件保険契約において被保険者の新規加入又は保険金の増額の場合には、各被保険者である組合員に対して告知書兼申込書の提出を求め、これをもって商法六七四条の被保険者の同意があったものとして取り扱っている。

六  原告の保険料の取扱い

原告は、川崎第一個人タクシー協同組合(以下単に「川崎第一」という。)の保険料としての回金途上の金員を昭和五四年四月二四日に二三万九三四〇円(三月分)、同年五月一二日に二三万九四〇〇円(四月分)及び二四万五三九〇円(五月分)、同年六月八日に二五万六九七〇円(六月分)、同年七月九日に二六万一四一〇円をそれぞれ受領していながら、それらを連合会に対しても被告に対しても入金していない(〈証拠略〉)。

七  被告の懲戒解雇規定の定め

被告の懲戒規定には、回金について、「…または正当の理由がなくその入金、回金または支払いを遅延した場合」とし、回金途上の金員の着服を懲戒解雇事由として規定している。

八  懲戒解雇とブラックリスト送付

原告は、昭和五四年六月以降前記各手当金の支払を受けられず、また、同年八月には、被告の神奈川団体支社長から、連合会の保険業務に関与することを禁じられ、業務を担当させてもらえなくなったため、同年九月に依頼退職届を提出したが、被告はこれを認めなかった。

そして、被告は原告に対し、同月二六日、懲戒解雇の辞令を交付することによって懲戒解雇の意思表示をした。

右交付された辞令には、懲戒解雇の理由としては、〈1〉保険料、保険金、解約返戻金その他の支払金を横領し、又は、正当の理由なくその入金、回金又は支払を遅延した場合、〈2〉会社の名誉を著しく毀損した場合に該当するとの記載がなされていた。

また、被告は、同月二六日、社団法人生命保険協会宛に、登載事項を「費消」とし、登載該当者を原告とするブラックリストを送付した。

昭和三七年七月二日から実施されている(昭和四三年九月一日一部改正)「不良外務員のブラックリスト取扱要領」によると、原告についての「費消」という登載事由は、保険料、保険金、解約返戻金その他の支払金を横領し、又は正当の理由なくその入金、回金又は支払を遅延するという事故を惹起して退社した者で、今後生命保険の業務に従事することにより業界の信用を失墜させる虞があると判断された者について適用されるものである。

右ブラックリストは、右協会本部に送付され、同本部は、大蔵省保険第一課、各保険会社本社、各地方協会、各財務局、各財務部に通知し、各地方協会は各加盟会員会社に連絡することになっている。そして、ブラックリストに登載されると、三年間は特別の理由のない限り、各保険会社は当該の者を外務員として採用しないことになっている。

九  和解契約の成立

原告と被告とは、昭和五五年四月一一日、(証拠略)において「未払賃金一七三万五九五三円を原告が被告から受領した暁には、今後、一切未払賃金に関する異議申立は致しません。」との内容の和解契約を締結し、原告は右金員を受領した。

(争点)

一  募集手当金等の請求について

1 諸手当金請求権の存否

被告は、被告が記録していた被保険者名並びに保険金額と連合会の各単位組合が記録していた被保険者の台帳の被保険者名並びに保険金額と第二回目の保有照合を行い、右台帳と照合した第二回目の保有照合の結果を基礎資料として整理した内容を真正な保険契約の内容とすることとし、連合会の会長の同意を得たか。

2 諸手当金に関する和解の成否

前記和解契約は原告の錯誤によるものか。

二  損害賠償請求・懲戒解雇事由の存否

被告は原告に対し連合会の各単位組合から集金することを禁止していたか否か。

原告は連合会に対し預け金を有しており、未収金は連合会の承諾を得てこれへの充当にあてていたか否か。

三  未払手当金請求(但し、予備的請求)・懲戒解雇事由の存否

(当事者の主張)

一  募集手当金等の請求について

1 諸手当金請求権の存否

(一) 原告

(1) 昭和五四年五月以降の中途加入及び従来の保険金の増額による毎月の保険金の増額とそれに対応する諸手当金の額は前記争いのない事実に記載のとおりである。

また、以上の保険金の増額及び保険料の増額が認められれば、原告は、昭和五四年二月から同年七月の期間内に保険金の目標額である六〇億円の保険契約又は保険金増額を達成したことになるので、約定成績手当金として同年八月ないし一二月の各二五日に各六万円合計三〇万円の支払を受けるべきところ、被告は、毎月七〇〇〇円、合計三万五〇〇〇円の支払しかなさず、毎月五万三〇〇〇円、合計二六万五〇〇〇円が未払いとなる。

よって、右諸手当金の合計は、四八一万八八九三円であるが、被告は、内一七三万五九五三円を昭和五五年四月に支払ったので、現在の残額は、三〇八万二九四〇円である。

(2) なお、個々の被保険者について契約が成立するためには、連合会会長からの中途加入あるいは増額の申し込みがあり、被保険者が加入資格を有しており告知書兼申込書があれば、被告からの拒否がない限り契約は成立し、それにともなう諸手当金請求権が発生するのであって、本件にあっては被告の申込みに対する拒否はなかったので、右契約は有効に成立している。すなわち、各被保険者は、勤労団体保険増額申込書(例 連合会会長から被告に宛てたもの。〈証拠略〉)により申し込みがなされ、告知書兼申込書(〈証拠略〉)も提示され、これに見合う保険料も支払われているので(〈証拠略〉)、各被保険者の同意は当然あったものと見るべきである(〈証拠略〉と〈証拠略〉の数字は一致している。)。

(3) 被告と各単位組合との間で第二回目の保有照合が行われたことを否認する。

被告は、各単位組合の台帳に記載されている保険契約が真正なものと見るのが妥当であると主張するが、台帳なるものは未だに証拠として提出されておらず、その存在自体不明である。真正な契約は、告知書兼申込書をともなう中途加入あるいは増額の申込による契約である。

連合会会長が、第二回目の保有照合の結果を基礎資料として整理した内容を真正な保険契約の内容とすることに同意したという被告の主張は否認する。

仮に、被告の右主張どおりであるとすれば、契約者たる連合会(ママ)長は少なくとも被保険者や保険金額の正誤表は見せられているはずであるが、そうした事実は全くない。

原告の諸手当金請求権は、(証拠略)記載の金額以上のものは存しないとの被告の主張は争う。

(二) 被告

(1) 本件保険契約は、連合会会長を契約者及び受取人、連合会を構成する各単位組合の組合員を被保険者、被告を保険者とする契約であって、他人のための生命の保険であるから、商法六七四条により被保険者である各組合員の同意が効力発生要件である。

そこで、被告は、本件保険契約において被保険者の新規加入又は保険金の増額の場合には、各被保険者である組合員に対して告知書兼申込書の提出を求め、これをもって商法六七四条の被保険者の同意があったものとして取り扱っているのであり、諸手当金請求権が発生するためには、保険契約の構造に従って、保険契約者たる連合会会長と保険者たる被告との合意と被保険者たる連合会の構成員の同意が要件となる。

したがって、本件においては、原告主張の保険金の増額を内容とする書面が被告に到達したものの、これには被保険者の同意が欠けているから、効力が発生していない。

(2) 被告が第二回目の保有照合をした結果、被告が記録していた被保険者名及び保険金額と連合会の各単位組合が記録していた被保険者の台帳の被保険者名及び保険金額との間に多数の不一致が発見された。

本件保険契約の被保険者は、各単位組合を経由して、契約者たる連合会の会長に対して申込書兼告知書を提出して他人の生命保険に同意する扱いになっており、各単位組合の台帳は、右申込書兼告知書に従って作成されているので、右台帳に記載されている保険契約の内容が真正なものとみるのが妥当である。

そこで、被告は、右台帳と照合した第二回目の保有照合の結果を基礎資料として整理した内容を真正な保険契約の内容とすることとし、連合会の会長もこれに同意した。このような整理結果の内容をもとに計算した原告の諸手当金額は一七三万五九五三円となり(〈証拠略〉)、原告の被告に対する諸手当金請求権は右金額以上のものはなく、原告は右金員を受領しているので、原告の被告に対する諸手当金請求権は存しない。

(3) なお、被告にとっては、原告が行っていた新規加入契約及び増額が架空であることが判明していなかったので、被告は、形式的な保険料額を基準として算定した諸手当金を原告に支払っていたのである。

また、諸手当金の支払を中止したのも、原告が事務手続をしていた時点での保険契約の内容に虚偽の疑いが発生したためであって、そこで、被告は原告に対し、本件団体生命保険の事務手続に関与しないよう申し渡し、そして、被告は保険契約の内容を調査するために、昭和五四年ころから各単位組合の台帳の記載内容と被告所有の台帳とを比較対照する保有照合を開始し、いまだ契約内容の真偽が不明の段階にあった。

また、被告が原告の依頼退職を認めなかったのは、右保有照合の結果、その事実関係について原告の弁明を確認する必要があると考えたからである。

2 諸手当金に関する和解の成否

(一) 被告

(1) 原告と被告とは、(証拠略)において「未払賃金一七三万五九五三円を原告が被告から受領した暁には、今後、一切未払賃金に関する異議申立は致しません。」と合意しているから、諸手当金の支払に関しては和解契約が成立しており、そして、原告は右金員を受領している。

したがって、仮に原告の諸手当金額が右金額以上のものであったとしても、原告は右和解契約によって右金額を超える部分の諸手当金請求権を放棄した。

(2) また、仮に、本件和解契約に関し、原告に錯誤があったとしても、その錯誤には重大な過失がある。

(二) 原告

被告の主張する和解契約は錯誤により無効である。

原告が、当時被告に請求していたのは、四七九万六四四七円であり、その金額を譲歩して一七三万五九五三円を受領したのではない。

原告は、昭和五五年四月一一日、被告の横浜東支社(神奈川団体支社から名称変更)の支社長相川清(以下「相川支社長」という。)から計算上右の手当金しかないと断言され、しかも、(証拠略)の保険料明細書しか見ていなかったため、諸手当金計算の基礎となる中途加入、保険金の増額にともなう保険料の支払を現実に連合会が実行したかもしれないと考えて確認書に署名捺印したのである。大会社である被告と一保険外交員である原告という力関係の差もあり、支社長に言われればそれを信じるしかなかったのであって、相川支社長が右事実を分かっていながら真実に反したことを言っていたのであれば、同人の欺罔行為により原告は錯誤に陥ったのであり、そうでなくとも手当金の数字が違っているのなら、被告はそれを支払うべきである。

二  損害賠償請求について

1 懲戒解雇事由の存否

(一) 原告

(1) 原告は、昭和五四年一二月一二日、被告の東京総局長から、前記諸手当金は支払えない旨を告げられた。しかし、原告は、連合会に対する計算違いによる未払配当金約八〇〇万円を支払って欲しい旨要求し、数字でその根拠を示したが、右総局長は、これには答えず、かえって原告の保険料の入金が丼勘定であることを指摘し、原告に対し、突然本件懲戒解雇をなした。

原告としては、同総局長と同月一二日に会った際も、横領という言葉は聞いておらず、また、横領や名誉毀損などは身に覚えのないことであった。

(2) 被告が原告に対し各単位組合から集金することを禁止していたことは否認する。各単位組合から集金した金員を連合会を通じて支社へ入金することは昭和五九年九月に禁止されたが、各単位組合から集金することは禁じられていなかった。

右の入金しなかったことが着服横領であるとの主張は争う。

すなわち、被害者は被告と連合会の二者発生するわけはないのであって、連合会が被告から請求された金員を支払っている限り、被害者になる可能性があるのは連合会であり、問題となるのは、川崎第一の保険料が連合会に入金されていたか否かである。原告は、連合会及び柏原支社長の要請により川崎第一の集金を手伝っていたのである。集金した金員は連合会に対する預け金の返還に充当したり、集金額に手持ち金を足して連合会に入金していたのであり、着服と評価されるべきものではないし、本件懲戒解雇前にすでに右の点に関する疑問は解消されていたのであり、連合会は被害者ではなかったことに確定していたのである。したがって、原告が受領した金員そのものを連合会に入金しなかったことをもって着服横領と評価すべきではない。

(3) 被告の懲戒規定に、回金について、「…または正当の理由がなくその入金、回金または支払いを遅延した場合」と定められていることは認めるが、原告の行為が右規定に該当するとの主張は争う。

すなわち、本件のように正当な理由がある場合には、右規定に該当しないと解すべきであるし、仮に右規定に該当するとしても、これに対して本件懲戒解雇という処分を科すのは重きに失すると言わざるを得ない。

(4) 原告が川崎第一から集金した金員について回答を実質的に拒否したとの被告の主張は否認する。

右拒否したことが昭和五四年一一月三日のことであるとすれば、この日は、被告の神奈川団体支社の相川支社長、内務課長小林啓造(以下「小林内務課長」という。)及び支部長新井洋(以下「新井支部長」という。)が、原告に対し、川崎第一が保険料相当額を支払ったこと及び右保険料相当額が連合会に入金されていないことについて空欄のある(証拠略)の明細表を見せて確認を求めたので、原告がまず、「連合会から被告に保険料が入っているのか」と質問し、これに対し、小林内務課長が、「保険料は不足なく入っている」と答えた。原告は、また、右明細表を見て新井支部長に対し、「昭和五三年一二月から調べないと分からないし、一部だけ調べても分からない。それに二月の七六万九六〇〇円は連合会に持って行ったのではないか。連合会に行ってよく調べたらどうだ。自分も連合会会長のYさんに会ってよく説明する。ただYさんに説明することはあなた方に報告する義務はない。」と言ったところ、相川支社長らも納得して帰ったのである。

また、被告は、東京総局において、本件保険契約の種々の不明な点について原告から事情聴取するとともに、原告に弁解の機会を与えたと主張するが、原告が昭和五四年一二月一二日に東京総局長と会った際の、川崎第一に関する会話は、「川崎第一の保険料は連合会に入っているのか。」、「連合会に払っていますよ。ただ、帳簿は見ていないので帳簿上のことはわからないが。」ということで終わっており、事情聴取とか弁解の機会を与えられたというようなものではなかった。原告を懲戒解雇にするのであれば、原告に対し証拠を示して弁解の機会を与え、更に調査すべきであったが、原告にはそうした機会はあたえられていない。また、被告内部の報告書(〈証拠略〉)も原告の言い分の真偽を調査することもなく起案されているし、懲戒解雇に関する協議も稟議という書類の持ち回りによって行われているのであり、懲戒解雇の手続として適正とは言い難い。

(二) 被告

(1) 原告は、被告が原告に対し連合会の各単位組合から集金することを禁止していたにもかかわらず、昭和五四年四月から六月まで一部の単位組合から集金していた。かかる場合、原告が集金した金員は、将来保険料として被告に支払われるべきものであって回金途上のものであるから、原告はその金員を連合会を通じて被告に入金すべきものなのである。

原告は、前記争いのない事実記載のとおり川崎第一の保険料としての回金途上の金員をそれぞれ受領していながら、それらを連合会に対しても被告に対しても入金していない。

よって、原告は、前記回金途上の金員を着服していると評価できるのである。

(2) なお、原告は、原告が連合会から依頼されて集金業務を行っていたと主張するが、仮に原告が連合会から依頼されて集金業務をしていたとしても、対外的には被告が集金したものとしてその責任を負わざるを得なくなる。そこで、被告の懲戒規定においても、回金途上の金員の着服を懲戒解雇事由として規定しているのである。

(3) 次に、懲戒解雇の手続についてであるが、被告は川崎第一から集金した金員について原告に問い合わせたが、原告はその回答を実質的に拒否した。

また、被告は、東京総局において、本件保険契約の種々の不明な点について、原告に対し事情聴取するとともにその弁解の機会を与えている。そして、被告は、内部の手続に則り、原告を懲戒解雇を相当とする旨の決定をしている。

よって、懲戒解雇に至る手続も適法であるから、本件懲戒解雇は有効である。

2 損害について

(一) 原告

(1) 原告は、被告による違法な本件懲戒解雇及びブラックリスト登載措置により次の損害を蒙った。

すなわち、原告は、昭和五五年一月、朝日生命保険会社に採用されることが内定していたが、本件懲戒解雇及びブラックリスト登載により、採用されないこととなってしまった。同社に採用されていれば、同年二月から原告が満七〇歳になる昭和六二年まで代理店として稼働することができ、毎月平均一〇〇万円以上の収入が得られたはずであり、原告の得べかりし利益は昭和五五年二月以降毎月一〇〇万円である。

ア まず、原告の朝日生命保険会社への就職は、同社の横浜北支社長、法人課長とも会い、入社後の打ち合わせもしており、代理店方式で行うことも決まり、本件懲戒解雇やブラックリスト登載がなければ、朝日生命保険会社への入社は間違いないことであったし、その場合、原告の勧誘により契約直前までいきながら原告の勧誘の努力を神奈川団体支社長が無視したため、被告との間では契約成立には至らなかった全国個人タクシー連合会との団体生命保険契約を、朝日生命保険会社への自分の仕事として持ち込めたからである。同連合会との契約は、保険会社三社の引き受けが条件であったが、それでも一社あたりの契約高は一五〇〇億円の三分の一の五〇〇億円であり、朝日生命保険会社との代理店手数料は、契約高一万円に対し月二〇銭であり、この契約だけでも原告が得たであろう収入は月額一〇〇万円になったし、その他新たに東京都個人タクシー協同組合との契約高一〇〇〇億円の契約成立の可能性もあった。

イ 次に、何ら理由のない本件懲戒解雇とブラックリスト登載により名誉と信用を著しく傷付けられたものであり、かかる精神的損害を慰謝するには一〇〇万円が相当である。

(2) さらに、ブラックリストに一旦登載されてしまうと、後日これが抹消されたとしても、名誉と信用を完全に回復することは困難であり、慰謝料によっても償われない損害が残るから、原告の名誉と信用を回復する措置として新聞紙上での謝罪広告が適切である。

(二) 被告

全て否認する。

三  未払手当金請求(予備的請求)について

1 原告

右に述べたとおり、本件懲戒解雇は無効であるから、原告は、依然として被告の正社員の地位にあり、原告が満七〇才になる昭和六二年まで現役として十分働けたから、月額一〇〇万円をくだらない額の手当金が得られた。

2 被告

本件懲戒解雇は有効であるので、原告の被告に対する手当金請求権は存しない。

第三争点に対する判断

一  保有照合から本件懲戒解雇及び連合会との保険契約内容確立(ママ)に至る経緯

後掲各証拠のほか、(人証略)、原告本人尋問の結果(但し、後記認定に反する部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  神奈川団体支社及び連合会の機構・役員構成等

原告の所属していた神奈川団体支社(但し、現在は横浜東支社と名称変更している。)には、支社の最高責任者である支社長のほか、生命保険の販売の責任者である支部長、事務の責任者である内務課長等の役職があった。原告の在職当時の支社長は当初柏原廣であったが、昭和五四年三月以降、相川清となった。

なお、昭和五四年当時の支部長は新井洋であり、内務課長は小林啓造であった。

右支社の取扱う事務は、連合会及び九州個人タクシー連合会の団体保険が大きな比重を占めていた。

連合会は、横浜、神奈川、横須賀、川崎及び川崎第一の、五つの単位協同組合から構成されており、連合会自体の事務所・事務員はなく、連合会傘下の右五単位組合の中で二年交替の持ち回りで会長を引受け、また、会長を引受けた単位組合が連合会の事務を引受けるという取扱いになっていた。

連合会の会長は、昭和五四年六月、Fから川崎協同組合のY(以下「Y会長」という。)に引き継がれた。

2  第一回保有照合

昭和五三年秋ころ、被告の担当部局では、被告の帳簿上の要徴保険料と、原告が被告と団体保険契約を成約させた連合会及び九州個人タクシー連合会からの実際の保険料収入金額との差が非常に大きいことが問題となった。団体保険においては、ある程度の入金不足が恒常的に発生するのはやむを得ないものとして、被告においても予想していたところではあったが、この場合の金額の差の大きさは被告の予想をはるかに超えるものであった。そこで、被告としては、保険料計算の基礎となる保険金の額が、被保険者ないし各単位組合の段階と、被告の段階とで大幅に食い違っているからではないかとの疑問を持ち、さっそく両連合会の担当外務員である原告に右の事情を調査させることにした。その後、原告から、「減額・脱退があったのに、その書類上の処理が実際の減額・脱退の時点で正常になされていなかったのが原因である。」との報告があり、昭和五四年一月までに、原告が右保険料の入金の不一致に相当程度合致する訂正をリストアップしてきた。

ところで、被告における募集手当、初年度手当等の支給規程によれば、月払保険の場合、第六回目までの保険料が全額納入されず失効した契約(解約、減額、脱退を含む。)があったときは、これを「早期失効契約」として、これに対応する部分の手当金は支給せず、仮に、既に支払ずみの手当金がある場合には、被告に返還戻入すべきことになっている。

そこで、原告の説明に従って処理すると、減額・脱退の時点が早期失効にかかる時点まで繰り上がるため、原告が昭和五三年一月から同年七月までに取り扱った契約のうち、この早期失効契約に該当するものが多数発生し、これに伴い、既支給の手当金のうち、被告に返還戻入すべき額が一六〇一万九八三三円と判明したので、同年一二月に原告に対し右金額を通知し、原告もこれを承認した。

原告は、その後右返還戻入すべき金額のうち、昭和五三年一二月二六日三〇万円、昭和五四年二月二八日四八九万円、同年三月一六日五九一万円、合計一一一〇万円を被告に返還戻入したので、未返還戻入残高は、四九一万九八三三円となった。このようなことから、同年三月三〇日、相川支社長は原告との間で、「右未返済残高の一〇〇〇円未満の端数を四捨五入により切り上げて四九二万円とする。」ということで合意し、原告が、「返済金残高確認書・返済金返済誓約書」(〈証拠略〉)を提出し、返済を確約したので、被告は、被告内部の帳簿処理上「戻入すべ額」につき全額を仮払処理して引き落とし、その代わりに同額を「原告に対する貸付金勘定」に振り替えた。

その後、原告は被告に対して、同年四月二五日五四万円、同年五月二五日五四万円、合計一〇八万円を返還戻入したので、未返還戻入残額は、三八四万円となった。

なお、昭和五五年四月一一日に確認書(〈証拠略〉)を作成した当時は、右三八四万円が未返還戻入であったので、右確認書3で「今後も返済請求を行う」旨記載し、あらためて原告の確認を求めた。

3  第二回保有照合の開始

ところが、その後、昭和五四年四月から五月の時点で、被保険者の死亡による保険金請求書類が相次いで被告に提出されたが、右各請求書記載の保険金額と被告引受の保険金額との間に不一致のあることが判明した。

そこで、被告の東京総局及び本社が昭和五四年四月以降の申込みにつき疑問をもち、この両者の協議の結果、保有照合の必要性を認め、四月分の申込みの到着以前に支社に対し、「今後到着する申込みは仮受付にすること」という指示を出した。

そして、被告において、各単位組合へ右の点を問い合わせたところ、各単位組合の台帳の保険金額が請求書記載の保険金額と一致しており、したがって、そもそも各単位組合の台帳の保険金額と当初被告への申込にかかる被保険者名簿の保険金額とが不一致であったということが間もなく判明した。しかし、その不一致が生じた原因については、各単位組合でもわからず、また、被告が原告に事情を尋ねてもやはりわからないというだけであったので、結局、被告としては個々のケースごとの調査のみではそれ以上調査のしようがないということになった。

ところで、この同年四月から五月にかけての保険金請求については、請求のあった事案(一五件)の約四割に保険金額の不一致が認められ、その率が非常に高く、しかも、その不一致の原因が不明であったため、被告においては、他にまだ判明していない不一致が多数存するのではないかという疑いを抱き、この点を調査するには、本件団体保険の被保険者全部の保有照合をする以外にはないとの判断に至り、同年五月から六月の時点からの第二回目の保有照合を実施することとなった。

そこで、被告は、同年五月から翌昭和五五年一月過ぎにかけて第二回目の保有照合を実施したが、この保有照合は、連合会に対してのみ行われたのではなく、むしろ各単位組合との間で直接行われた。

具体的な保有照合の作業は以下のとおりである。

まず、被告において、連合会を構成する横浜、神奈川、横須賀、川崎及び川崎第一の五単位組合の理事長に対し、昭和五四年五月末現在の保有につき照合を依頼し、各単位組合で把握している保有状況のリストを作成し、次にこのリストと被告で把握している保有状況との間で照合を行い、相違するものについてチェックした。なお、右リストの作成に際しては、被告が各単位組合の台帳から写し取った上、これをリストの形に清書し(〈証拠略〉の原型で手書きの訂正部分のないもの。)、更に写し間違いのチェックのために、右リストを各単位組合に送付し、間違い部分を訂正の上返送を受けたものが(証拠略)のリストである。

被告は、その後、更に正確を期するために、各単位組合の理事長に対し、同年八月末現在の保有状況について再度、照合を依頼し、各単位組合の共済担当者にチェックさせ、そのチェック済みのリストに再度その単位組合の理事長の確認印を受けるという手続をとった。具体的には、(証拠略)のリストに六月から八月の異動を増減した(証拠略)のリストの原型を作成し、これを各単位組合へ送付してチェックさせ、誤りを訂正させたのが(証拠略)のリストである。

4  連合会からの問い合わせ

昭和五四年一〇月末ころ、被告は、連合会のY会長から、協栄生命収支明細書(〈証拠略〉)が添付されていた同月二七日付け「団体生命保険料収支に関する件」と題する書面(〈証拠略〉)により照会を受けた。Y会長からの照会は、同年度の保険料につき、各単位組合から連合会を経由しないで、直接被告へ納入されたものがあると思料されるので、該当するものがあれば別添の明細表の空欄に記入の上、そのコピーを連合会へ返送して欲しいというものであった。

そこで、被告において調査したところ、右明細表(〈証拠略〉)の空欄のうち、横浜協同組合分の同年五月分については、連合会を経由しないで、直接被告に納入されていた分が存したので明細表にその金額を記入し、また、同組合の同年三月分、神奈川協同組合及び川崎協同組合の各空欄については、それぞれ各組合において保険料を支出した事実がなかったので、明細表には横線を記入した。また、川崎第一の空欄については、そのうち同年三月分については同組合において保険料を支出した事実がなかったが、同年四月分から同年七月分については、原告が同組合分から保険料を受領していることが判明した。しかし、この原告の受領額は、被告に対して直接納入されていなかったので、川崎第一の同年四月分から同年七月分の空欄には右金額を括弧書きで記入した。

以上のほか、他の所要の記入をして明細書(〈証拠略〉)が作成された。被告はこのコピーを、昭和五四年一一月二〇日、連合会のY会長に提出した。

5  本件懲戒解雇まで

(一) 原告は被告に対し、昭和五四年九月、同月三〇日付けの今般一身上の都合により退職致したい旨の記載のある退職届を提出した(〈証拠略〉)。

(二) しかし、被告は、前記のとおり、第二回目の保有照合中であり、原告の取り扱った契約の内容に疑義を有していたので、右依頼退職の申出を認めず、相川支社長名で左記の内容の昭和五四年一〇月一三日付け内容証明郵便(〈証拠略〉)を原告に送付した。

前略 先般昭和五四年九月三〇日付け退職願提出に接しましたが、貴殿が今まで手掛けておりました昭和五一年発足神奈川個人タクシー連合会、昭和五三年発足九州個人タクシー連合会、グループ保険につき、不明、問題点が多大にわたりあり、又貴殿よりも会社に対し調べてほしい問題等も山積しております。早速に解決しお客様へ迷惑のかからないよう正常な契約に戻すことが急務であります。したがって、不明・問題点が山積している中で貴殿よりの退職願を即受理することができず、返還いたします。全て解決するよう協力方就業規則のとおり正常に出社勤務されたく通知いたします。なお、左記書類別途郵送致しました。

一退職願 二退職届 三業務廃止届 四身分証明書 五健康保険証

(三) 被告は、前示のとおり、Y会長から「団体生命保険料収支に関する件」と題する書面(〈証拠略〉)及び明細書(〈証拠略〉)を受け取ったので、支社の帳簿伝票をもとに調査した。保険料は一括して計算され、各単位組合分がわからなかったので、小林内務課長を川崎第一に赴かせ、保険料の支払につき調査させた。

(四) 相川支社長、小林内務課長、新井支部長は、同年一一月三日、原告宅に赴き、原告に川崎第一からの集金につき問い質したところ、原告は、「それは(連合会の)団体内部の問題であって、Y会長に鏤(ママ)々説明してあるので、あなたに説明する必要はない。」と答えたが、相川支社長が、「連合会の方から問い合わせがきているのでそれでは困る。」旨再度原告に説明を求めたところ、原告は「今は資料を持っていないので、後日回答する。」と述べた。ところが、その後も、原告は、川崎第一から徴収した金員の行方等について、相川支社長らに対しては事情を全く説明をしなかったばかりか、実家のある北海道へ行くなど、家を留守にすることが多くなった。

(五) このようなことから、相川支社長は、同月五日、Y会長に会い、「川崎第一の保険料は原告が受領したが被告には入金されていない。原告の方では会長によく説明してあると言っているが、会長は説明を聞き納得しているか。」と尋ねたところ、Y会長は、「最近原告に会っていないし、そもそも被告の外務員である原告が徴収している以上、川崎第一の保険料の件は被告内部のことで、被告の方で処理する問題でしょう。」と答えた。

(六) 同月上旬ころ、相川支社長と小林内務課長は、川崎第一の保険料が連合会に入金がされていないか、再度、Y会長に確認するため、連合会の事務所に赴き、「原告が受領した保険料は本当に連合会に納入されていないのか。」と質問したところ、Y会長は、「連合会では、入金があれば必ず出納簿に記入しており、その出納簿を調べても、川崎第一の四月から七月については、保険料入金の記載が全くなく、したがって連合会へ納入されていないことは間違いない。」と答えた。そこで、相川支社長は、「では、その出納簿のコピーをいただきたい。」と頼んだところ、Y会長は、当時連合会関係の事務を担当していた事務職員のEに命じて出納簿のコピー(〈証拠略〉)を作成させ、これを相川支社長に交付した。相川支社長が「これが連合会の出納簿原本のコピーに間違いないということを証明する趣旨で確認印をもらいたい。」と依頼すると、Y会長は右コピー各葉の上覧に確認印を押した。

(七) 前示のとおり、相川支社長は、同月二〇日、Y会長のところへ赴き、Y会長から送付された「協栄生命収支明細書」(〈証拠略〉)を基に作成した明細書(〈証拠略〉)を渡し、前示のとおりの調査結果をY会長に報告した。

(八) 被告は原告に対し、同月二二日、相川支社長名をもって、川崎第一不明保険料に関する回答督促の件(〈証拠略〉)と題する左記同月二〇日付け内容証明郵便を差し出し、同日、右郵便は原告に到達した。

前略 連合会グループ保険契約にかかわる川崎第一の、貴殿が連合会団体保険部貴殿捺印の領収書発行にて集金されている昭和五四年四月二四日付け(三月分)二五万九二〇〇円、昭和五四年五月一二日付け(四月分)二五万九二一〇円、昭和五四年五月一二日付け(五月分)二六万五二〇〇円、昭和五四年六月八日付け(六月分)二六万四〇六〇円、昭和五四年七月九日付け(七月分)二六万八六二〇円、合計保険料一三一万六二九〇円は集金年月日に連合会並びに被告神奈川団体支社にも入金されておらず不明であります。当件につきましては昭和五四年一一月三日貴殿宅にて通知致し貴殿より調査の上早急に回答するとのことでありましたが、昭和五四年一一月二〇日現在、未だ回答いただいておりません。つきましては本件保険料は公金であり貴殿が集金時においてすみやかに連合会を経由し被告神奈川団体支社へ入金されなければならず団体側並びに被告神奈川団体支社に対し早急かつ明確な回答を致すことが貴殿の責務であります。つきましては本書面到達後五日以内に被告神奈川団体支社長宛書面にて回答されたく、督促いたします。

(九) 原告は被告に対し、同年一一月三〇日付けの左記内容の手紙(〈証拠略〉)を差し出した。

昭和五四年一一月二二日付け第五三号内容証明書の件について回答致します。この件については、先日、支社長、新井支部長、小林内務課長と三人で拙宅に来たときに、相方に報告の必要性がないと答えてあるはずです。この件についての私の義務は連合会会長に全件の引き継ぎを行うことですので、さる昭和五四年一一月八日に、昭和五一年一一月から昭和五四年七月までの分について書類で報告してありますので、暫定措置に対するものは終わっており、連合会会長と話し合ったことについては貴殿に報告する必要はないと思います。なお、別件ながら、右の書類は、私の業廃届の処理ができないという理由であったので、横浜財務部にも提出してあります。

(一〇) 原告と被告の東京総局長とは、同年一二月一二日、面会した。原告は、東京総局長から、原告が集金した川崎第一にかかる五四年三月から七月までの保険料一二四万二五一〇円につき事情聴取を受けたが、追求をかわすのみで終わった(〈証拠略〉)。

そこで、被告は、右事情聴取の結果等をふまえ、稟議の結果、同月二〇日、原告を同月二六日付けをもって懲戒解雇することとした(〈証拠略〉)。

(一一) 相川支社長は、同年一二月一八日付けの「連合会、九州個人タクシー連合会、両勤労団体保険契約手数料精算書並びに両団体にかかる催告書」と題する内容証明郵便(〈証拠略〉)を原告に送付し、原告は、右文書を同月一九日受領した。その内容は、連合会及び九州個人タクシー連合会の保険契約に関する手当金の返還を求めるほか、川崎第一にかかる昭和五四年三月分から同年七月分の保険料につき、いずれも原告が集金し着服して連合会にも被告にも入金していないので、至急弁済するように求めるものであった。

(一二) 右通知に対し、原告は相川支社長に対し、内容証明郵便(〈証拠略〉)を送付した。その内容は、被告の求める手当金の返還が貸付金の返還となっており承服できない等述べるほか、川崎第一の保険料につき、右保険料は毎月連合会より払い込まれており、連合会では既に整理済みであるから被告からとやかく言われることではないし、着服したなどとは言い過ぎであると申し立てたものであった。

(一三) 相川支社長は原告に対し、同年一二月二六日、本件懲戒解雇を伝えるとともに、被告は左記内容の同日付け解雇辞令(〈証拠略〉)を手交し、原告はこれを受領した。

外務職員就業規則付属規定第四・賞罰規定第三章第一〇条第一項第一号及び第九号該当により懲戒解職処分に付する。

さらに、また、原告は、同日、被告から解雇予告手当てとして九万二七七〇円を受領した(〈証拠略〉)。

なお、被告の就業規則(〈証拠略〉)一〇条には、懲戒解職として、「一項一号 保険料、保険金、解約返戻金その他の支払金を横領し、または正当な理由がなくその入金、回金または支払を遅延した場合」「一項九号 会社の名誉を著しく毀損した場合」が規定されている。また、ブラックリストは保険協会を通じて各保険会社の本社、全国の支社、大蔵省、各財務局に配布されているところ、被告は、同年一二月二六日、原告を、費消事故を理由にブラックリスト登載者とした(〈証拠略〉)。

6  原告と被告とのその後の交渉の経緯

(一) 被告は、昭和五五年一月二五日付けの催告書と題する内容証明郵便(〈証拠略〉)を原告に送付し、原告は右文書を同月二六日受領した。その内容は、再度、連合会及び九州個人タクシー連合会の保険契約に関する手当金の返還を求めるほか、川崎第一にかかる昭和五四年三月分から同年七月分までの保険料につき、いずれも原告が集金し着服して連合会にも被告にも入金していないので、弁済するように求めるものであった。

(二) しかし、原告は被告に対し、昭和五五年一月二八日、相川支社長宛の左記の内容の同日付け内容証明郵便(〈証拠略〉)を送付した。

昭和五五年一月二六日受け取った第六九九号内容証明書に対して回答いたします。

昭和五四年一二月二六日に貴殿が未払手数料の精算について話し合いで整理したと言っておいてこの約束を破ることは遺憾です。したがって、昭和五四年一二月一八日付け第三五四号による団体保険契約手数料精算書並びに催告については再度これを拒否します。前回の私の回答は真実に反するというのは貴社の一方的な考え方(と違うということ)であろう。私は真実はあくまで主張します。

私は貴社より金を借りたことはない。したがって、貸付金の返済請求催告することは不当であるのでこれを拒否します。

調査中に間違いがあるので再度調べている。これでも貴社の調査からみれば早い方である。諸官庁云々ということは先方が労基法違反だというから調査してもらっているので連絡することがなんで悪いのか貴社のいうこと判断に苦しみます。

公正に調査したものであれば、利害関係者である私が関係書類の提出を求めた場合、提出しても貴社にはなんにも心配はないはずです。提出を拒否することは調査が公正でない証明です。このことは後日諸官庁に再度提出を要求します。

保有照合の時期について利害関係者であった私にとやかくいわれることはないというのは一寸おかしいのではありませんか。

連合会内部の問題については貴社にとやかく言われる筋ではないはずです。

なお、昭和五四年六月より発生している不払手数料その他私より口頭又書面で請求又依頼していることについては話し合いで解決する意思が現在私になくなったので通知します。

(三) 相川支社長は、昭和五五年三月三一日、原告に対する未払手数料に関して労働基準監督署から呼び出しを受けたが、同署へ出頭した際、担当監督官に対し、原告が求めている未払手数料のうち一七三万余円を超える部分については、原告の架空操作による水増し分であるため支払えない旨述べた。監督官からは、「更に双方で話し合って至急解決せよ。」との指示があり、同年四月七日、被告の横浜東支社(同年三月一日付けにて機構改革により神奈川団体支社は横浜東支社と改称)の支社長室において、相川支社長が原告と話し合った結果、原告は一七三万余円の支払で了承すると確約したので、相川支社長と原告とは、同年四月一一日、左記内容の確認書(〈証拠略〉)を作成し、被告は、同日、原告に対し、賃金未払分として一七三万五九五三円を支払った(〈証拠略〉)。

(1) 原告(以下甲という)が、昭和五四年九月三〇日付け内容証明郵便にて、被告神奈川団体支社支社長相川清(以下乙という)に催告した未払賃金三九五万八三五五円(並びに同一内容にて昭和五四年一〇月二九日付け内容証明郵便で、甲の代理人板谷洋を通じ被告に催告した三九五万六三五〇円)は、その後会社が調査し算定した一七三万五九五三円をもって、未払賃金のすべてであることを、甲は了承致しました。

未払賃金一七三万五九五三円を甲が乙より受領した暁には、今後甲は、一切未払賃金に関する異議申立ては致しません。

(2) 甲が乙より未払賃金一七三万五九五三円受領と同時に、昭和五四年七月二七日乙が甲に戻入指示し、甲も了解した九州個人タクシー連合会にかかる初年度手当五五万〇二八四円を直ちに甲は乙に支払うものとする。

(3) 乙が昭和五四年三月三〇日に甲に貸し付けた四九二万円(昭和五四年四月二五日、五四万円、昭和五四年五月二五日 五四万円、合計一〇八万円返還済み)のうち、未返済となっている三八四万円については、今後も乙は甲に返済請求を行う。

(4) 当該確認書は二通作成し、甲・乙双方がそれぞれ保管するものとする。

そこで、被告は、原告との協議の結果の右顛末を、昭和五五年四月一四日、労働基準監督署に報告した。

(四) ところが、原告は、昭和五五年四月一二日、左記の内容の同月一一日付け「確認書訂正方請求について」と題する内容証明郵便(〈証拠略〉)を被告に送付した。

昭和五五年四月一一日発行貴社作成の確認書について私は和解することだけを考えて記名捺印し持ち帰り再確認したところ、次の二項目に間違いがあるので訂正を要求します。

(1) 確認書第一項中甲の代理人板谷洋の催告した金額は昭和五五年三月東京地方裁判所を通じて請求した金額四七九万六四四七円でありますので、その方等にある確認書を訂正してください。

(2) 確認書第三項中乙が昭和五四年三月三〇日に甲に「貸し付けた」とあるを私は金を借りたことがないので、これの「貸し付けた」をその方等にある確認書から抹消してください。

以上の二項目について訂正を要求する。なお、この訂正を行わない場合、この確認書は無効とする。右通告する。

7  被告と連合会との保険契約内容確定手続

(一) 被告は、昭和五五年一月、各単位組合との間での第二回の保有照合を一応終了し、その結果、得られた資料を整理しているうちに、同年二月末日をもって昭和五四年度が終了したので、配当決算の準備のため、同年三月二六日ころ、相川支社長が連合会に同月一九日作成の計算書(〈証拠略〉)及びその他の資料を持参して、Y会長にこれらを提出した上で説明を行い、また、リスト(〈証拠略〉)も右資料等と相前後して同年三月下旬ころ、連合会に提出された。

なお、右計算書(〈証拠略〉)は、第二回の保有照合の結果に基づき作成されたものであり、同年一月までの「件数」「主契約保険金」「特約保険金」は右保有照合結果を踏まえて作成されているが、同年二月分については、作成当時、いまだ集計中であったので、概算の意味で同年一月分と同じ数値が記入してある。また、「保険料」の額は、主契約保険金につき、対万五円(保険金額一万円につき保険料が月額五円という意味である。)として計算されている。

(二) 連合会は被告に対し、同年三月三一日付け書面で、昭和五四年度分については、「保有高に差異があること」、「保険料の計算は対万四円とすべきこと」を通知してきたので、相川支社長は、同年四月四日ころ、連合会に対し、連合会内部の保有照合を至急終了してもらいたい旨申入れるとともに、同年四月一〇日付けで「連合会グループ契約懸案事項解決案」(〈証拠略〉)を作成し、同月一七日ころ、連合会へ持参し、Y会長に提示した。その内容は、昭和五四年度分につき、保険料の計算は対万四円で同意するが、保有については被告主張のとおりで確定するというものであった。

(三) 連合会は、同年四月二〇日付け「貴社懸案事項解決案に対する回答」と題する書面(〈証拠略〉)を被告に送付した。その内容は、連合会で確認した保有は、被告の主張する保有に比較して差異があるが、それは僅差であり、昭和五四年度については被告の主張する保有で確定することに同意する。保険料は主契約保険金については、対万四円、特約保険金については対万一円七〇銭とすることで了承するというものであった。

なお、右回答書添付の計算書(〈証拠略〉)は、先に被告から連合会に提出した計算書(〈証拠略〉)の「保険料」欄を、連合会において、対万四円の計算で書き直し、それに伴って「単月の過不足」「過不足累計」欄もそれぞれ書き直したものであった。

(四) さらに、連合会は、同年五月一日付け内容証明郵便(〈証拠略〉)を被告に送付した。

右書面は、昭和五四年度の保有を被告主張のとおりとし、主契約保険金の保険料は対万四円とするという前記回答書(〈証拠略〉)記載の内容で連合会の理事会において決議がなされた旨通知するとともに、昭和五四年度の精算額(保険料未納分)が二五八万六六五五円であることを認め、これを四月三〇日送金したこと、これについては計算書(〈証拠略〉)及び振込領収書(〈証拠略〉)を別送したことがそれぞれ記載されていた。

なお、右計算書(〈証拠略〉)には、Y会長の認印が押されており、かつ、その記載内容は全て被告主張の「件数」「主契約保険金」「特約保険金」の数値を基礎としている。

(五) ところで、被保険者証(票)とは、新たに被保険者となった場合及び保険金を増額した場合に発行するものであって、同一保険金額のまま更新する場合には、改めて発行することはない。

被告は連合会に対し、昭和五三年度においては中途加入ないし増額につき一月ごとにまとめて被保険者証を発行していたが、昭和五四年度においては、同年五月から第二回目の保有照合が始まり、これが昭和五五年一月まで要したので、結局、昭和五四年度の中途加入ないし増額にかかる被保険者証は連合会に対し発行しなかった。ところが、被告は、昭和五五年九月になって、連合会から、同年三月一日現在の被保険者全員について被保険者証を再発行してもらいたいとの申入れを受けたので、同年一〇月、被保険者全員について被保険者証を再発行(同年度になって途中加入ないし増額した者については新規発行)をした。

二  募集手当金等請求(諸手当金請求の成否)について

前記認定の事実によれば、連合会は、遅くとも昭和五五年四月三〇日ころまでには、昭和五四年分の被保険者ないし保険金額の増額につき、第二回目の保有照合の結果を踏まえた被告主張のとおりの数字で承認しているのであるから、被告と連合会とは、これをもって真正な保険契約の内容としているというべきであり、原告の諸手当金は一七三万五九五三円となる。

したがって、原告は、前記のとおり、右金員を被告から受領しているのであるから、原告の本件募集手当金等請求は理由がない。

三  損害賠償請求(懲戒解雇事由の存否)について

1  原告が、川崎第一の保険料としての回金途上の金員を昭和五四年四月二四日に二三万九三四〇円(三月分)、同年五月一二日に二三万九四〇〇円(四月分)及び二四万五三九〇円(五月分)、同年六月八日に二五万六九七〇円(六月分)、同年七月九日に二六万一四一〇円をそれぞれ受領していながら、右各金員を連合会に対しても被告に対しても入金していないことは争いのないところ、右事実は、本件懲戒解雇事由を定める被告の就業規則(〈証拠略〉)一〇条一項一号の「保険料、保険金、解約返戻金その他の支払金を横領し、または正当な理由がなくその入金、回金または支払を遅延した場合」に該当するということができ、被告の職員としての原告のこのような行為は、生命保険会社としての被告の根幹を揺るがす重大な職務違背行為であるということができるから、本件懲戒解雇は合理性を有し相当であるというべきである。

この点に関し、原告は、川崎第一から集金した右各金員については、被告にも連合会にも入金していない事実を認めながらも、川崎第一から集金した金額に見合う金員を、連合会に対し事前に川崎第一分として自己の金員の中から立替払いしていた旨主張し、右のような事情がある場合には「着服」に該当しないし、また就業規則一〇条一項一号等にも該当しないとする。

しかし、原告は、「〈1〉川崎第一のHが昭和五三年一二月二八日死亡したが、昭和五四年五月一一日まで保険金が出なかったので、原告としては集金に行きにくいので、連合会の会計のNに対し、川崎第一の同年三月分と四月分と説明した上で、同年二月二七日に五〇万円を入金しており、これの回収に充てたのが、前記の同年四月二四日と五月一二日の川崎第一からの集金分二三万九三四〇円及び二三万九四〇〇円であり、回収にあたっても、右Nの了解を得ている、〈2〉川崎第一の五月分は、同年三月一五日、二四万円を五月分として入金することを連合会会計のNに説明している。この分の回収は、右Nの了解のもとに、同年五月一二日の川崎第一からの集金分二四万五三九〇円からしている、〈3〉川崎第一の六月分及び七月分の保険料については、同年六月八日に川崎第一から二五万六九七〇円を集金後、それに二四万三〇三〇円をプラスして五〇万円とし、六月分及び七月分として、同年六月一四日、連合会のO共済部長に説明して入金しており、七月分として入金した分は、これまで回収していなかった分も含め、同年七月九日、連合会事務担当のEの了解を得て、川崎第一からの集金分二六万一四一〇円から回収している。」と主張するが、(証拠略)等に照らすと、Hの保険金支払のみが格別遅れているとは認めることができないし、本件全証拠に照らしても、連合会に原告の立替えを証する帳簿等が全くないばかりか、原告が川崎第一から集金した金員を取得することにつき連合会の担当者等から了解を得ている事情も全く認めることができないし、そもそも、本来、保険料の支払いは翌月払いでよいのに、敢えて期日前に原告が立替払いしなければならない必要性の存したことも認めがたい。

原告は(証拠略)と(証拠略)を比較し、同年二月二七日、五〇万円を川崎第一の三月分及び四月分として、同年三月一五日、二四万円を川崎第一の五月分として、六月一四日、五〇万円を川崎第一の六月及び七月分として、それぞれ連合会に立替払いしたとも主張しているけれども、右証拠をもってしても、原告の立替払いの事実を認めるに十分でなく、他に原告主張の事実を認めるに足る証拠もない。

したがって、原告の右の点に関する主張は採用しない。

2  また、原告は、本件懲戒解雇手続は、手続として適正さに欠ける旨主張するが、本件においては、前記認定のとおり、原告は被告からの再三にわたる問い合わせにもかかわらず川崎第一から集金した金員につき何ら被告に回答しなかったことから、被告において、前記のとおりの諸手続を経て本件懲戒解雇をしているのであるから、その他右手続に違法の点の認められない本件にあっては、原告の主張は理由がない。

四  未払手当金請求(予備的請求)・懲戒解雇事由の存否

以上のとおり、本件懲戒解雇は有効であるから、この点に関する原告の主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第四結論

以上説示したところから明らかなとおり、本訴請求はその余の点については判断するまでもなく、いずれも理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林豊 裁判官 合田智子 裁判官 三浦隆志)

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